備忘録

自分のためだけに書きます

「地域」に興味を持ち始めた話

 就職して2年。「地域」という言葉を日々頭に浮かべながら生活をしている。一体なぜだろう。自問をしてみたい。

 

 

 高校までは田舎町で、地域を意識しない育ち方をした。地元の歴史を自主的に調べることなどもちろんなかったし、伝統行事に親しんだ記憶もない。友達も少なく、家族と出かけることもなかったから、基本は学校と家を往復する生活だった。大学で「君の地元ってどんなとこ?」と聞かれて答えることがなく困ったような記憶がある。それくらい地元に思い入れがなかった。

 

 「実家で暮らしたい」

 「昔からの友達と仲良く過ごしたい」

 

 そんなことを言う人の気持ちがよく分からず、大学で都会に出てきた。最初は見知らぬ土地で人間関係の作り方が分からず、孤立した生活で苦しいなぁと思った時期もあったが、じきに慣れた。都会での暮らしが合ったというより、それなりの居場所が大学生活で見つかったから(サークルを通した友人関係など)だと思う。

 

 

 でも基本は、一人が好きだった。一方で、一人でいるときの時間の使い方、楽しみ方はあまり分かっていなかった。

 

 

 都会に楽しみがあふれているとはいえ、大きな百貨店とかモールとか繁華街を巡りたいわけでも、おしゃれなカフェに行きたいわけでも、テーマパークではしゃぎたいわけでもなかった。かといって凝った趣味があるわけじゃないから、イベントに出向いたり専門のショップで品を集めるわけでもない。一流のビジネスマンになってやろうと、意識の高いセミナーに通っていたわけでもない。電車が好きだったから、いろんな路線に乗れるのはよかったけど…。

 

 文化と情報が集積する都会に住む優位性を、当時それほど感じていたわけではなかった。日常を送る空間が、たまたま今は都市なんだというだけの認識だっただろう。行動範囲が狭く金もない大学生なんて、得てしてそんなものかもしれないが…。

 

 

 自分が「地域」なるものを意識しはじめたのはいつなのか。

 

 

 大学生活も中盤に差し掛かったころ。大都会のターミナル駅から2キロ弱しか離れていない地区を歩いたときだった。貨物線の線路を隔てた先にはツインタワーや商業ビルが立ち並んでいるというのに、その地区は木造家屋が密集し、人通りはまばら。最寄りの駅は島式の大変狭いホームで、悲しいくらいさびれたアーケード街があった。

 

  

 だが不思議と、自分はそこを歩いていてのんびりとした気分になった。どこか身近な非日常に迷いこんだ感じ…。ターミナルのど真ん中をイヤホンを付けて歩いている時は決して感じないもの。「足を踏み入れてはならないゾーンに入ってしまった」という違和感もなかった。同じような魅力を感じた人が他にもいたのか、不思議と空き店舗を改修したカフェがあったり、今まで触れたことのない雑貨とか本を扱うショップがあったりした。

 

 

 よくよく注意してみてみると、都市にはそんな地区がたくさんある。商店街や盛り場として今も栄えていたり、衰退する一方だったり、新しい人が入って再生の動きがあったり、状況はそれぞれだが、下町的な雰囲気を出している地区だ。そうしたエリアは、オフィス街や繁華街など、他の性格を持つ地区から分離されているわけではなく、地続きのように存在する。様々な性質の地区の集合体として大都市が成立しているからだ。

 

 

それからなんとなく、「街並み」に関心が出てきた。

 

 

 電車の駅ごとに街の雰囲気が違うなぁとか、高架下の薄暗さがいいなぁとか。その程度だったけど。フィールドワークをするのが合っているかもと、ゼミも人文地理学を選んだ。課外授業でインナーシティを歩いて回ったり、都市論とか地域社会学の本を読んでみたり…。あまり理解が深まった記憶はないが、自然と「地域」という言葉をよく使うようになった。

 

 

 旅の仕方も少し変わった。もともと18切符で乗りつぶし旅行をするのが好きだった。ただ行先で過ごす目的はなく、かといってマニアというほど鉄道好きでもなく、消化不良の感があった。ゼミでフィールドワークをして癖がついたのか、行先で街並みを歩いて見て回ったりするようになった。もちろん、住んでいる地域の街並みも…。自然と、なんでこんな街並みが形成されたのだろうと疑問が湧いてきた。

 

 

 「街並み」の形成には、「地域」の位置づけや歴史を知らないといけない。それは本を読んだり街を歩くうちに、なんとなく分かっていった。たまたま大学のサークル活動も、住んでいた地域に関係する物事を扱っていた。いろんなことが複合的に重なって、「身近な地域がただ住むだけの場所だったり、住んでいる人と関わりを持たないのはなんかいやだな」と思い始めていた。

 

 

 結局、地域と関わる仕事をすることになった。生まれ育った地元とも、街並みの面白さを教えてくれた都会とも違う場所で。

 

 

 振り返ってみると、現状はある程度筋の通った過程を経て至ったものなのかもしれない。あまり自治体の動向とかに興味はないんだけど、地域への興味はいろんな視点から持つことができる。街並み、コミュニティ、歴史、文化、自然…。そうしたものの形成と変化を見ていきたいのかもしれない。自分が使う「地域」の定義がイマイチ定まっていないけど、とりあえず興味はあるんだから色々勉強していけばいいのだろう。興味を持てる分野ができただけ、人生の収穫はあった。

 

 

 次は「地域の何を掘り下げたいのか」「どの地域を掘り下げたいのか」。それが定まるまで、しばし修行だ。