備忘録

自分のためだけに書きます

【読書雑記】マルクス『資本論』 ① ~価値について~

ひとまず放り出さなかった「資本論

 

資本論を読んでみたい」。漠然とした思いのままにアマゾンで全3巻のうち第1巻をポチったのが2月のことだ。そこから10か月、ようやく読み終えることができた。これでまだ3分の1というので、たぶん2巻目を読むモチベを抱くには相当な時間がかかるだろう。

 

資本論〈第1巻(上)〉 (マルクス・コレクション)

資本論〈第1巻(上)〉 (マルクス・コレクション)

 

 (↑ 読んだのは、有名な岩波文庫版(向坂逸郎訳)などではなく、筑摩書房の「マルクスコレクション」から出されたもの。訳が一番わかりやすいというレビューそのままに買いましたが、確かに分かりやすかったです)

 

昔の全共闘時代の革命戦士たちも、闘争に忙しくて実はあんまり資本論読んでいなかったという話を聞いたが、確かに資本論は長いし難しい。しかし筆者の大学生の時を振り返ると、授業で過去の遺物のようにマルクス経済学が紹介される一方で、恩師の先生からは「資本制社会とは何かということを追究した本はこれしかない」的なことも言われて、やっぱり気になっていた。ちょうど地理学の勉強をしたいなと思ってマルクス主義経済地理学者のデヴィッド・ハーヴェイに興味を持っていたので、有り余る時間をドブに捨て続けていた学生時代の反省も込め、思い切って源流の資本論を読む決意をしたのだ。

 

休日や仕事終わりのわずかな時間を縫って読み進めてきたもので、やってみると相当面白くはあった。それだけに、その内容を十分理解せぬまま忘れてしまっても悔しいもの。ならばと、ここで第1巻の個人的に気になった部分を解説していくことにした。あくまで自分の頭の中に理論を入れていく一つの手段として…。第1回は表題のように、マルクスの資本制理解の最初の切り口となる、価値概念について第1章から書いてみる。

 

ー以下本題ー 

 

マルクスの価値概念(第1章「商品」第1節~2節より)

 

1.商品に宿る3つの価値

 

マルクスの目的は、資本制的生産様式のメカニズムの解明だ。社会にあふれる商品の総計は、社会の富として表すことができる。ここから、マルクスはまず商品に注目して分析をしていく。

 

商品に関して、使用価値、交換価値、何も冠のつかない「価値」、この3つの価値が登場する。

 

3つの価値がどう違い、どう連関しているのか、自分もここでまず躓いた。分かりにくさにあふれた表現になるが、マルクスの言葉を使いながら、説明をしていきたい。

 

  • 使用価値…人間にとって有用な物である。使用され、消費されて初めて価値が表出する「商品の身体」。鉄や小麦など、その物体そのものが使用価値なのである
  • 交換価値…商品の他の商品との交換比率である。ここで、商品は単なる量として示されるだけで、使用価値は一切含んでいない。

 

使用価値は、例えば水や空気のように商品化されていないものにも当てはまり(空気が商品化されたらヤバいね)、したがって資本主義特有のものではない。一方交換価値は、市場の登場を思わせるものだ。

 

マルクスはここで、リンゴとかみかんのような異なる商品を交換できるのは、いずれの商品も共通の何かで測ることができるからだとする。共通の何か―。それが3つ目の「価値」である

 

  • 価値…人間の労働によって生み出されたものである。ある商品を作るために費やされた労働時間の長さが、価値の大きさとなる。

 

各商品の使用価値という側面を見ないようにすると、どの商品も人間の労働生産物という側面しか持たなくなる。で、その生産物を作るために必要な労働時間の長さこそ、価値の大きさだというわけだ。1個の商品Aと2個の商品Bが価値としてイコールであるのは、どちらも同じだけの労働時間をかけたから、ということになる。

 

2.社会的必要労働時間

 

だが、ここでまた躓いてはいけないのが、ここでいう労働時間は「今日は特別慎重な気持ちで、普段の倍の時間をかけて1個のミシンを作りました」という個別具体的な労働時間とは違うのだ。それでは、いたずらに長い時間をかければかけるほど1個の商品の価値が高い、ということになってしまうからだ。

 

ここで登場するのが「社会的必要労働時間」という抽象的な概念である。これは、ある使用価値(商品のことね)を生み出すために、平均的な生産設備のもとで平均的なスキルの労働者が特段サボらずに掛けた時間のことだ。この時間が同じである商品同士は、同じ価値を持っている。そうマルクスは結びつける。だから、商品の生産技術が一般的に向上し、1個生産するための社会的必要労働時間が減ったとすれば、それはその商品の価値が下がった、ということになる

 

3.価値の連関

 

ごちゃごちゃとしてしまったが、「使用価値」「交換価値」「価値」の関係性を整理しよう

 

  1. 商品というモノは人が消費をするので「使用価値」を持っている
  2. 商品は別の商品と交換をされるので、その時に量的な比率として表される「交換価値」を持っている
  3. 量的な比率は、商品生産のために社会的に必要な労働時間の量である「価値」によって決まる
  4. なぜその労働が社会的に必要かというと、生産する商品が「使用価値」を持っているからである

 

使用価値→交換価値→価値→使用価値 というループが出来上がった!いずれも同じ商品のことを、別々の側面から見たときに出てくるものだ。

 

各価値を総計したものが商品の全価値になるとか、そういう解釈をすると誤解になる。また、先ほどの社会的必要労働という「抽象的な労働」は、現実のミシンとか鉄とかを作るための作業プロセスを経てなされる「具体的な労働」とは別物である。

 

ただ、具体的な労働をしないと商品は生産できない。だから上の3つの価値の話と同じように、商品を生み出す労働過程には、交換価値の根拠となる価値を生み出す抽象的労働と、使用価値を生み出す具体的労働、この2つの側面がある、という風に捉えればよいのかなと思う。

 

 

マルクスの「労働価値説」というと言葉だけは知っていたが、商品同士の交換の背景に人間の労働を見出すというのは、現代の経済学にはない着眼点だ。それだけでも、今後マルクスが資本制システムでの労働者の搾取というものをどう理論づけて記述していくか、苦しいなりにも読み進める楽しみが出てきた。第2回は、商品交換から貨幣へのつながりについて、引き続き第1章を紹介していく。